水の底から

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【ねこキラーの逆襲】第2章 ねこを殺したことはある? (2/3)

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「わたしにはねこを飼う資格なんてなかったんだ

 一週間ぶりに会ったユサは、髪を部分的に青っぽく染めていて、全体的に短く刈り込んでいた。むき出しになった右耳には鋲のようなピアスが三つ、行儀よく並んでいる。縁飾りのついた黒いミニスカートをはき、細い両脚の膝上まで伸びるストライプの靴下は、左右で色が違った。ユサがスカートをはいている姿は初めて見た。写真で見たライブの時の衣装も普段着も、ユサはボーイッシュな格好を好む。最近ではチェーンを垂らしたパンツ姿のユサしか僕の印象にはない。ユサはその顔立ちとも合わせて、声を聞かなければ男に間違われることさえある。それでも、ユサがスカートをはいている姿は似合っていた。どんな格好をするにしても、ユサは自分に似合う服装というものをちゃんと心得ている。どんなに危なっかしい格好をしていても、その点についてだけははずさない。その感覚の正確さに、僕はときどきとても驚かされる。

 ショルダーバッグをぶら下げて煙草をくわえているユサに、僕は遅れて近づいた。待った? と声をかけたけれど、駅前広場の時計台は時刻がまだ集合時間の五分前であることを告げている。携帯式の灰皿に煙草の火を押し付けながら、ユサは首を横に振る。そしてこちらに視線を向けると、顔に何か着いてでもいるかのように僕をまじまじと見つめ、それから軽く首を傾けて口を開いた。キシ、なんか元気ないね? 僕はびっくりして訊ね返した。そう見える? ユサは眉間にしわを寄せて、小さく二度うなずいた。なんかね、やつれてるなって感じがする。何かイヤなことでもあった?
 簡単に相談をして、駅前の複合商業施設の一画にあるパスタ料理専門店で夕食を取ることにする。店に入ると店員にテーブル席まで案内され、僕とユサは向かい合って座った。席にひとつしかないメニューを机の上に拡げて、お互いに覗き込むようにしてメニューを見る。僕は目についたマルゲリータピザを素早く選んで姿勢を戻した。いっぽうユサは時間をかけてメニューを点検し、ジェノヴェーゼソースのパスタとハーフボトルの白ワインを選び、店員を呼んだ。注文を受け付けた店員がすぐにグラスとボトルをもって来て、ふたり分のワインを注ぐ。乾杯をしてグラスに口をつけてから、僕はユサの先ほどの問いに簡単に答える。イヤなことというか、イヤな夢を見たんだ、ついさっき居眠りしてるときに。それがまだ頭に残ってるのかもしれない。グラスを持ったまま、ユサはそっけなく訊ねる。どんな夢? 迷いながらも、要点だけを正直に答える。知り合いに似た人がビルの上から飛び降りる夢。それはキツいねぇ、と心持ち顔をしかめて相槌してから、ユサは白ワインを口に含んだ。そして、それ以上のことは訊ねなかった。忘れないうちに、と前置きをして、ユサは財布の中から千円札を二枚取り出し、僕に手渡した。チケットの返金ね。今チケットは持ってる? 僕は自分の財布からチケットを取り出し、ユサに返した。ショルダーバッグにそれをしまい、それまでの何気ない表情から唐突にバツの悪そうな顔をして、ユサは詫びる。急な話でゴメン。初めてライブに来てくれるって話だったのにさ。こんなことになって悪いと思ってる。事情があって、キャンセルしなくちゃならなくなって。もしまた改めてやれるようになったら、連絡する。じゃあ、二度とやれなくなることも有り得るのかと僕は訊ねた。大丈夫だとは思うよ、とユサは自信なさそうに答える。少しだけ間をあけてから、僕は訊いてみる。何があったの? ユサはそれに答える代わりに、この食事の後時間はあるか僕に訊ねた。地下鉄の終電にさえ間に合うなら、時間はあると僕は答える。それだったら、とユサは指を組んで提案した。食べた後でいつものバーに行って、お酒を飲みながら話すよ。そのほうがいい。今は食事を楽しもう。そしてまたワインをひと口すすって、意地悪そうな笑みをつくった。最近何してる? はぐらかされた気分のまま、特に何も、と僕は答える。大学は休みで特に用事もないから、大抵自分の部屋で過ごしてる。本を読んだり、ゲームしたり、お酒を飲んだり。言いながら、僕はワインをひと口飲んだ。ユサも小さく笑みを浮かべて、ワインを飲んだ。ヒマなんだ、とユサが小さくつぶやいたけれど、その言葉には何となく裏に意味があるように聞こえたので、僕は聞こえなかったフリをした。何も言わずに、もうひと口ワインを飲む。
 会話が途切れた。料理はまだ運ばれてこない。ユサはグラスを傾けたりワインの香りを嗅いだりして、ひとりで時間をつぶしている。僕はグラスをもつユサの指を、ぼんやりと見つめた。冷えた溶岩のような無骨なドクロのデザインの指輪と対比して、ユサの指は細く、それでいて子どものように丸っこい。可愛い指をしているな、と僕は思った。この指がベースの弦を力強く弾くところを、うまく想像できない。ユサがそのように愛らしい十本の指を備えて生きているなんて、今まで思いもしなかった。勝手な想像で、もっと男性的な手をしていると思っていた。その意外さに打たれ、ぼんやりとその指を見つめていたせいで、僕はユサが何か話しかけているのを聞き逃してしまった。何か言ったかとあわてて訊き返すと、ユサはわざとらしく大きなため息をついてからゆっくりとグラスの水を飲んで、それからテーブルに残った水滴をおしぼりで丁寧に拭きながら、壁に釘を打ち付けるような強い口調で言った。ねこはまだ見かけるの? 僕は咄嗟に見かけるよと答えてしまった。でもユサの言う「ねこ」が何を指しているのか、瞬時に判断できてはいなかった。いつ見た? とユサが重ねて訊ねたけれど、そのせいですぐに返事ができなかった。「ねこの目の女の子」のことを思い浮かべていたけれど、ユサは知らないはず。ユサが言及している「ねこ」が何であるかに思い当たるまでに、呼吸二回分ほどの時間がかかった。何も答えない僕にユサが怪訝な顔をしかけたときに、僕はやっと答えた。三日前。ユサはそれを聞いて意味ありげに小さくうなずいてから、残っていたワインを乾した。僕が空になったユサのグラスにワインを注いでいると、店員がパスタとピザを持ってきてテーブルに並べた。いただきますと言って、僕たちはそれぞれの皿に向かった。
 ねこは元気そうだった? フォークにスパゲティを巻き付けながら、ユサが訊ねた。それについて少し考えてみたけれど、どう答えていいか分からなかったので、僕は見たままを答えた。相変わらずアパートの入り口のところに座っていて、こっちが近づくとすぐ逃げる。元気かどうかは分からないけど、初めに見たころよりは太ってきたような気がする。それでもまだ、かなり痩せてはいるけれど。そこで話を止めてピザにかじりつく僕に、ユサはどこか探るような声で訊ねる。そのねこは、怪我とかしてなかった? 口の中のものを咀嚼しながら思い返してみたけれど、結局先ほどのようにあいまいな答えしか返せなかった。たぶん、してなかったと思う。ユサが露骨に顔をしかめたので、どうしてそんなことを訊くのかと、ユサに訊ねることを躊躇した。しばらくしてユサは話題を替え、自身の近況報告などの当たり障りのない話を、食事が終るまでまるで義務のように続けた。食後のコーヒーを飲み終えてから会計を済ませ、店を出た。
 僕たちは無言で駅に戻り、そして機械的に地下鉄の切符を買った。さきほどの長いエスカレーターに前後で並んで降りているときも、地下鉄の座席に隣り合って座っているときも、ほとんど会話らしい会話をしなかった。十分ほど地下鉄に揺られ、僕たちはユサの自宅の最寄りの駅で降りる。駅を出てすぐ目の前を通る市内環状道路沿いこそ繁華街然としているものの、このあたりは一歩道を中に入ればすぐに静かな住宅街が現れる。僕たちはそんな駅近くのひっそりとした住宅地に建つマンションの、半地下にある行きつけのバーに入った。時刻はまだ七時を少し過ぎたばかりだったから、他に客の姿はない。ユサはスツールに座ると同時にメキシコ産のビールを注文した。僕も隣のスツールに腰をおろし、カウンターに載っているメニューを手元に引き寄せて開いてから、目についたアイラ島のウィスキーを頼んだ。ふたりのグラスがそろってから、僕たちは乾杯を省略して飲み始めた。ユサは添えられたライムを搾って中に混ぜ、泡を舐めるようにちびちびとビールをすすりながら話を始めた。でもそれは、僕の予期に反してユサたちのバンドに関わるものじゃなかった。県外に住んでいる従姉妹が車に乗って遊びにきて、その車に乗って、ふたりで三日ほど県内をあちこち回っていた、とユサは言った。隣町のラーメン屋に行ったとか、従姉妹の運転は危なっかしいとか、そういう類いの取りとめのない話がしばらく続いて、この話のテーマは彼女たちのささやかな冒険譚にあるんだなと思い始めたころにようやく、ユサは唐突に話の本題に入って僕を慌てさせた。キシはねこが轢かれて死んでるのを見たことある?
 ねこが轢かれて死んでるのを見たことがあるか? 僕は思わずユサの言葉をそのままオウム返ししてしまう。ユサは僕のほうを見ずじっとグラスに視線を注いで、うなずいたのかうなずいていないのか判別できないくらい小さく首を動かした。僕も同じように自分のグラスを見つめて、それについてじっくりと考えてみる。ないと思う、とよく考えた末僕は答える。そしてそれに関連して思い出したエピソードについて話してみる。でも、犬の死体を見そびれたことならあるよ。小学生のとき、友だちが車に轢かれた犬の死体を見つけて、僕に教えてくれた。それで一緒に見にいこうということになって、友だちに連れられて、僕たちは犬の死体があったはずの、ガード下を通る交通量の多い県道に行った。でも死体はもうなかった。片付けられた後だったのか、それともその友だちがそもそもの初めからウソを言っていたのか、分からないけれど。その話にユサが全然興味を示さなかったので、僕はあきらめて、グラスの中の生のウィスキーをひと口すすってから誘導するようにユサに訊ねた。ねこの死体を見たんだ?
 ピンクかったんだ、としばらく続いた沈黙の後でユサが重々しく口を開いた。黒いねこなんだけど、顔の周りだけ、ピンクかったんだ。それからユサはどこか遠くをじっと見つめ、はるか昔の出来事をひとつひとつ思い出すように、話を続けた。車は従姉妹が運転していて、ユサは助手席に座っていた。隣町のショッピングモールに買い物に行って、ふたりで服を買った帰り道だった。二車線の割には交通量の多い道路で、真ん中のラインはオレンジ色。そのオレンジの線の上に、ねこの死体があった。最初ユサは、何か黒いものが落ちている、としか認識していなかった。でもユサの従姉妹が間の抜けた上ずった声で、ねこ! と叫ぶのを聞いて、ああ、ねこなんだ、と理解した。車が死体の近くまで来て、隣を通り過ぎるとき、ユサの従姉妹が目を逸らせたまま死体を避けようと必要以上にハンドルを切ったから、車は危うくガードレールにこするところだった。急ハンドルに視界を強く揺すられながら、ユサはねこの死体の残像を強く浮かべていた。どういうふうに轢かれたのかはよく分からなかったけれど、ともかく顔面の辺りにピンク色の肉が見えた。スーパーなんかで見かける、パック詰めにされた鶏肉みたいなピンク色。血は見えなかった。今思うと不思議なくらいに全然血は流れていなかった。でも滴る血なんかよりもはるかに、剥き出しになった肉のピンク色のほうが不吉だった。見てはいけないものを見ているような気がした。隠されてなくちゃならないもの、人の目に触れてはいけないもの。でもそれは、紛れもない現実だった。轢かれて半ばミンチになったねこの死体という、紛れもない現実だった。
 ユサは話を区切って、ビールを飲んだ。先ほどまでのようなちびちびとした飲み方じゃなく、一気にあおるようにして。僕もウィスキーを傾けた。そして言葉を探した。でもそれは、見つからなかった。僕が何かを言う前に、ユサは再び口を開いた。ゴメンね、すぐにバンドの話をしようと思ってたんだけど、先にこの話をしなくちゃあたしの心情的にしっくりこないんだ。バンドの話と今の話は全然関係ないよ。でもあたしの中では繋がってるんだ。そしてもう一度ビールを飲み、カウンターの向こうの棚にあるウィスキーのボトルのあたりをにらみながら、本当に憎々しげにユサは言った。道路を横切るねこはたくさんいて、車を運転する人をヒヤッとさせる。そしてときどき、ねこは、走り抜ける途中で自分を目掛ける車の存在にぎくりとして、身がすくんで動けなくなっちゃう。そういうねこがときどき轢かれて死ぬ。そのねこに何か根本的な問題があるのか、それとも純粋に運が悪いだけなのか、それは知らない。車を運転する人が悪いわけじゃないし、ねこが悪いわけでもない。それは事故で、不幸な出来事というだけ。あのね、あたしが関係ない話を長々としている理由は、こう言いたいからなんだ。可愛そうなねこが今日もどこかで車に轢かれて死んでる、それだけでももう十分なのに、どうしてこれ以上、わざわざねこを殺す必要があるの?
 その言葉が僕に向けられているわけでないことは、もちろん理解していたけれど、僕は自分自身が非難されているような居心地の悪さを感じた。僕はグラスのウィスキーを飲み干して、別のウィスキーを注文する。新しいグラスがカウンターに置かれるまで、ユサは黙っていた。空のグラスにバーボンが注がれている途中で、会社員らしい三人組が店に入ってきた。彼らを給仕するためにバーテンダーが離れたのを見定めて、ユサは話の続きをした。あたしが組んでるバンドのメンバーについて、キシにはあんまり話をしてなかったと思うから、まあ名前なんかは省いちゃうけど、ともかくバンドは四人組で、そのうちふたりがねこを飼っていたんだ。ふたりともすごくねこが好きで、自分が飼っているねこももちろん好きなんだけど、相手が飼っているねこのことだって大好きだった。ふたりでねこの画像を見せ合ったり、家に行ってねこと遊んだりしてた。つまりすごく仲がよかったんだ。このバンドができた経緯ももともとこのふたりの繋がりが始まりだったんだよ。でもまあそれについては詳しく触れない。今ここで大事なのは、二匹のうちの片方のねこが、ある日突然いなくなったってこと。いつも夕方ごろに、遅くとも日が沈むまでには家に帰ってきたはずのその飼いねこが、ある日を境に二度と戻ってこなくなったってこと。
 ユサは話を止めて、残っていたビールを飲み乾した。でも新たに何かを注文するということはしなかった。ユサがすぐに口を開くという気配を見せなかったので、僕はまた誘導するようにユサに訊ねる。そのねこは、誰かに殺されたの? ユサは小さく首を動かして、静かに答えた。少なくとも、そのねこの飼い主はそう思ってる。そして何故か目の前で拡げた自分の十本の指を見つめながら、ユサは続ける。でもね、まるっきり根拠のない空想ってわけでもないんだ。その子の住んでる地域には、ねこ殺しがいるって噂があるんだ。実際に注意喚起の公報がまわされたこともあるみたい。でもそれよりももっと強力なソースはネット上のコミュニティサイトだね。その地域でねこを飼っている人たちが情報交換をするサイトなんだけど、そこで最近特に話題にあがっていたのがねこ殺しのことだった。実際に何人かの飼い主のねこがある日突然いなくなって、何人かの人が殺されたねこを草むらの中とかに見つけていた。ひどいやつがいてね、殺されたねこの画像がアップされることもあった。本来なら自分たちの飼ってるねこの可愛い姿をみんなに見てもらおうっていう使われ方をしている掲示板に、前触れもなく腹を割かれたねこの死体がでかでかと表示されるんだ。もちろん非難ごーごーでさ、そいつがねこ殺し本人だって指弾するコメントもいくつかついた。あたしは違うと思うけどね、そいつはきっと単なる幼稚な子どもだと思う。まあともかく、そういうふうにしてねこを殺す人間がこの地域にいるらしいという情報はねこを飼う人間には広まっていたみたい。バンドのふたりもたまにその話をしてた。だからその子のねこがいなくなったとき、ふたりはきっとまず第一にそのねこが殺されたのかもしれない、と思ったはず。あたしだってそう思った。でも誰もそんな不吉なことは言わない、きっと道に迷ってすぐに帰れなくなっちゃったんだよ、みたいなことを何気なさそうに言うんだ。そうだね、って本人も軽く応える。別にそんなに深く気にしてない、いつか必ず帰ってくるからそれを待つだけだ、とでも言うみたいに。でもそうじゃない。本当は心の中では不安で不安で仕方ないんだ。ねこが誰かに殺されたのかもしれないって考えが、どうしたって頭から離れない。でもそれを外に出すことはできない。うっかり口に出しちゃわないように、みんなも気をつけるんだ。最初の三日間くらいは、みんな軽い調子でねこは帰ってきたかって訊くんだけど、それを過ぎると逆に何も訊けなくなる。ねこのことは話題に出さないし、もし不可抗力でねこの話をするときも、みんな地雷を踏まないように慎重に言葉を選ぶんだ。分かるかな、そういうふうにしてあたしたちの関係は少しずつギクシャクしていった。好きにおしゃべりできなくなった。何より一番仲のよかった、このバンドの核でもあったふたりの間にどうしようもない溝ができちゃったんだ。一方はねこを殺された、少なくとも姿を消した。でも一方は、相変わらず家に帰ればねこがいて、好きなだけ可愛がることができる。初めのころはね、何だかお互いに申し訳なさそうなふうだった。でも段々、ねこがいなくなったほうの子がふさぎこんでいって、逆にもう一方のほうがピリピリとしだした。実際に陰であたしに愚痴を言うことだってあった。確かにねこがいなくなって可愛そうなのは分かる、だから自分だって気を遣ってあげなくちゃとも思う。でもだからって、何もあそこまで、世界中の不幸をまとめて引き受けてるみたいな態度をしなくたっていいじゃないか、というふうに。そういうわだかまりは時間が経つにつれてどんどん鮮明になっていった。もうほとんど表面化する一歩手前って感じだった。でも、昨日起こったふたりの衝突で、爆発したのはねこがいなくなった子のほうだった。そっちはいいよね、家の中で飼ってるから変な人にねこを殺される心配はないもんね、とその子は何の前触れもなく言った。わたしは、ねこを狭い家の中で閉じ込めるのは可哀想だと思ったから、外も中も自由に出入りできるようにしてた。そのことであなたから、外は危ないからやめたほうがいいって、何度も注意を受けてた。でもわたしは耳を貸さなかったし、こうするほうがねこにとってもいいと思ってた。そしてわたしのねこは殺されて、あなたのねこは今も可愛がられて、生きている。勝ったって思ってるでしょ? ザマーミロって思ってるでしょ? でもいいよ、それは。結局あなたの言うことが正しくて、わたしの現実の認識が全然甘かったってことだから。わたしがねこを殺したんだよ、つまりそういうことでしょ? わたしにはねこを飼う資格なんてなかったんだ。でも資格がなくてもわたしはわたしのねこをすごく好きだった、大好きだった。死ぬほど死ぬほど好きだった、あなたに負けないくらいに! どうしてそれを分かってくれないの? どうしてそれまで否定するの? わたしのねこが殺されたのは、わたしの愛情が足りなかったから? そんなはずはない! それがどうしてあなたには分からないの、どうしてその部分で勝ち誇れるの? もうあなたとは一緒にいられない、その勝ち誇った顔で、あなたのねこの話なんてもう聞くたくもない!!

 

(次回更新 7/17) 

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《あとがき》

 ユサ登場です。最初に思っていたよりも、彼女はずっと重要なキャラクターになっていきます。ここではまだ、都合よくストーリーを前に進める役割しか担っていなくて、けっこう雑だなと個人的に思います。
 このあたりのパートが、長編を書き始めて最初に苦しんだ部分です。いまでも、ここの話の進め方は気に入らなくて、読み返しても歯がゆく思います。でもまあ、ともかく先へ書き進んでしまって、それなりに満足しているので、良しとします。